研究課題/領域番号 |
22590248
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
稲津 正人 東京医科大学, 医学部, 准教授 (00297269)
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キーワード | コリン / トランスポーター / 癌 / 小細胞肺癌 / アポトーシス |
研究概要 |
コリンの生理作用として、神経伝達物質のアセチルコリンの前駆体および細胞膜の構成成分であるフォスファチジルコリンの前駆体としても利用されている。癌細胞はこのコリン要求性が高く、臨床にてコリンの集積性が確認されている。肺癌患者での^<11>C-cholineを用いたPET/CTによる解析により、肺癌へのコリン集積性が認められ、転移先においてもコリンの集積が認められている。よって、肺癌におけるコリントランスポーター分子の機能解析を実施した。ヒト小細胞肺癌へのコリン取り込みは、主にCTL1(choline transporter-like protein 1)を介して行われており、NHE1(Na^+/H^+exchanger 1)と機能共役していることが明らかとなった。さらに、コリン取り込み阻害作用を有する既存薬物も見出し、これらの薬物は、細胞増殖抑制ならびに細胞死誘導作用を有していた。また、caspase-3/7活性が上昇することより、アポトーシスによる細胞死であることが判明した。CTL1に対するsiRNAを用いて特異的にCTL1 mRNA発現を抑制すると、コリン取り込みの抑制、細胞生存率の低下、caspase-3/7活性の増大が観察された。小細胞肺癌は、取り込んだコリンからアセチルコリン合成を行ったいることを見出し、遊離したアセチルコリンは細胞増殖を促進的に調節していることが明らかとなった。即ち、小細胞肺癌は、コリンを積極的に取り込み細胞膜の構成成分であるフォスファチジルコリン合成に利用するのみならず、アセチルコリン合成にも利用し、いずれも細胞増殖に関与する重要な代謝経路であることが解明された。CTL1のコリン取り込み機能を阻害することにより、アポトーシスが誘導され細胞死に繋がる新たなメカニズムが明らかとなった。これまで様々な癌種を用いて、コリン取り込み作用と細胞増殖抑制との関連性を研究してきた結果、コリントランスポーターを標的とする癌治療薬の開発の可能性が示唆されたことより、癌治療剤の特許出願を行った(発明の名称:癌治療剤、特願2011-188053、2011年8月30日出願)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
各種癌細胞におけるコリントランスポーターの機能を明らかにすることができ、さらに治療戦略を提言することまで到達した。これらの研究成果を基に癌治療剤としての特許出願も達成した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、in vivoにおけるコリントランスポーター機能と癌細胞の細胞増殖との関連性を明らかにする。また、同時に作用メカニズムの解明を実施し、コリントランスポーターを癌治療の標的とする意義を検証する。コリン取り込み阻害作用を有する医薬品と既存の抗癌剤との併用効果の検証をin vitroおよびin vivoで検証する。In vivoデータが得られたら、特許のPCT出願を行う。さらに、癌治療薬のトランスレーショナルリサーチを推進するために、企業との産学共同研究の体制構築も推進する。
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