コリンは、神経伝達物質のアセチルコリンの前駆体および細胞膜の構成成分であるフォスファチジルコリンの前駆体として利用されている。最近、癌細胞においてコリン代謝系の異常が観察され、細胞増殖との関連性が指摘されている。また、PET/CTを用いた癌の画像診断において11C-コリンや18F-コリンが用いられるようになり、コリンの腫瘍細胞への集積性の高さが確認されている。従って、癌細胞は積極的にコリンを取り込み細胞増殖に利用していることが推察される。しかしながら、癌細胞に発現するコリントランスポーターの分子的実体ならびに機能的特徴については不明であった。そこで我々は、神経芽腫、小細胞肺癌、膵臓癌およびグリオーマにおけるコリン取り込み機構とコリントランスポーター分子についての解析を行った。いずれの癌細胞において、コリン取り込みは、細胞内プロトンとコリンの交換輸送により行われており、新規のNa+非依存性choline transporter-like protein 1(CTL1)およびCTL2を介して行われていることを明らかにした。更に、CTL1のmRNA発現抑制やコリン取り込み阻害により、アポトーシスによる細胞死が誘導された。小細胞肺癌においては、コリンを積極的に取り込み細胞膜の構成成分であるフォスファチジルコリン合成に利用するのみならず、アセチルコリン合成にも利用していることを見いだし、いずれも細胞増殖に関与する重要な代謝経路であることを解明した。これまで様々な癌種を用いて、コリン取り込み作用と細胞増殖との関連性を研究してきた結果、コリントランスポーターを標的とする癌治療薬の開発の可能性が示唆されたことより、癌治療剤の特許出願を行った(発明の名称:癌治療剤、特願2011-188053)。
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