研究課題
腸管出血性大腸菌O157感染症による急性脳症の発症の機構を調べるため、ベロ毒素によって生じる脳微小血管内皮細胞の細胞間および細胞内の情報伝達経路の変化を明らかにすることを目的とした。培養ヒト脳血管内皮細胞にベロ毒素を添加し、発現変化する遺伝子をマイクロアレイで経時的に測定した。その結果、ベロ毒素によって、多種の生理活性ペプチドの発現が変化することが判明した。インターロイキン(IL)6等のサイトカイン、その中でもCXCモチーフを持つケモカインの発現が大きく上昇し、ベロ毒素により脳血管内皮細胞と白血球のオートクリン的・パラクリン的に働く相互作用が変化することが示唆された。シグナル解析で、IL6経路が活性化されていることが判明した。一方、転写因子ATFファミリーやfos等の初期応答遺伝子の発現もベロ毒素によって上昇することが明らかとなった。in vivoでの治療法開発に関しては、マウスにO157を経口感染させると100%死亡するモデルを用いた。感染後2時間以内に低容量の抗生物質アジスロマイシン(AZM)を経口投与すると生存率が大きく上昇(80%)したが、感染後6時間目にAZMを投与しても生存には効果はなかった。ところが、瀉下作用のある漢方薬の一種をO157感染2時間後に投与すると、6時間後にAZMを投与してもマウスの生存率は上昇した。よって、この漢方薬の投与はO157の腸管への定着を抑制し、AZMはO157のベロ毒素の分泌を抑制することが示唆された。また、ベロ毒素B-サブユニットと抗酸菌のアルファ抗原の融合たんぱく質をBCGに組み込んだワクチンを作成するための基礎実験として、BCG株のサブポピュレーション間の遺伝子発現の相違点と類似点を明らかにした。
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日薬理誌
巻: 135 ページ: 215-216
Int.Immunol
巻: 22 ページ: 307-318