研究概要 |
1.私たちは最近、3-mercaptopyruvate sulfurtransferase(3MST)が第3の硫化水素(H_2S)生産酵素として働くことを報告した。3MSTのH_2S生産にはDTTなど還元剤が必要だが、この還元作用を担う内在性物質は不明であった。今回これが、チトレドキシンおよびジヒドロリポ酸であることを明らかにした。このことは3MSTが第3のH_2S生産酵素として機能していることを示しており論文に発表した(Biochem J 439,479-485,2011)。 2.私たちは、未熟な神経培養細胞においてH_2Sが内在性のグルタチオンを増やして細胞保護作用を示すこと、H_2Sによる細胞保護機構には還元力による作用と、還元力に依存しない作用があることを報告した。 H_2Sにより特にミトコンドリアのGSHが増えること、そしてミトコンドリア局在性のH_2S合成酵素3MSTとその基質生産酵素cysteine aminotransferase(CAT)を過剰発現させた細胞では、酸化ストレス抵抗性が増大したことから、H_2Sはミトコンドリアにおける重要な酸化的ストレス防御物質と考えられる。 3.私たちは、マウスの網膜神経においても3MSTとCATが局在することを見出した。また、網膜神経では、H_2Sが液胞型ATPaseを活性化してCa2+流入を阻害し、細胞内Ca2+濃度を低く保ち細胞死を防ぐというH_2Sによる新しい細胞保護メカニズムを発見した。マウス網膜光障害モデルでは、外穎粒層に細胞死とDNA損傷が発生するが、H_2Sはこの障害も強く抑えることを見出し、論文に発表した(J Biol Chem 286,39379-39386,2011)。 同じガス性メッセンジャーである一酸化窒素(NO)の細胞保護作用は、その代謝産物ペルオキシナイトライトにより拮抗されてしまうが、ラジカルを生成しないH_2Sはより効率的に細胞保護作用を現わすと考えられ、ストレス性疾患への応用が期待される。
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