研究概要 |
小胞体ストレスが、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの発症や病態進行に関わることが明らかにされている。小胞体ストレスを感知するセンサーのうち、IRE1とPERKは、膜貫通型のプロテインキナーゼで、活性化に分子間自己リン酸化が必要である。活性化されたこれらのセンサーは、転写因子を介して適応反応を誘導し、小胞体の恒常性を保つよう働く。 本研究課題では、小胞体ストレス応答制御におけるプロテインホスファターゼの役割について検討を行い、これまでに小胞体に存在するPP2Cε(PPM1L)が、哺乳動物に存在する3種類の小胞体ストレスセンサーのうちIRE1を特異的に脱リン酸化することを見出した。また、PP2Cεは小胞体に局在するscaffoldタンパク質であるVAPAを介してIRE1に結合することも見出した。プロテインホスファターゼ2C (Protein phosphatase 2C, PP2C)ファミリーは、真核生物のセリン・スレオニンホスファターゼで、哺乳動物においては、14種類のPP2C遺伝子が同定されている。それぞれのメンバーは、ユニークな非触媒ドメインを持ち、異なった基質特異性や細胞内局在を示す。PP2CのメンバーであるPP2Cεは、膜貫通ドメインを持つ膜タンパク質で、細胞質側に触媒ドメインを配した形で小胞体膜に局在するという、セリン・スレオニンホスファターゼとしては、大変ユニークな存在様式を持っている。これらの知見に基づき細胞レベル、動物個体レベルでの意義をさらに深く明らかにすることは、小胞体ストレスの制御メカニズムを明らかにする上で意義があると考えられた。
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