研究概要 |
本研究対象であるPeroxiredoxin 4(Prx4)には、従来から知られている分泌/小胞体型(Prx4a)に加えて、その上流プロモーターから転写されて生成する別の分子種(Prx4b)が精巣特異的に発現していることを明らかにした(Yim et al.論文投稿中)。すなわち精巣では、分泌シグナル配列をコードする第1エキソン(1a)に代わって、上流の親水性ペプチドをコードする別のエキソン(1b)から転写されてPrx4bが発現する。Prx4bは、peroxidase活性に必要な触媒ドメインをPrx4aと共有していることから、酵素活性の点からは大きな違いはないが、エキソン1の違いにより、分泌シグナル配列部分ならびに標的分子との結合に働くN末部分が親水性ペプチドに置き換わるため、生成するタンパク質の局在も分泌/小胞体から細部質/核へと変化し、標的分子や作用機構も異なることが予想される。分泌/小胞体型(Prx4a)については、Prx4欠損マウスに由来するB細胞を用いて、分化誘導した形質細胞の小胞体におけるIgMの酸化的foldingにPrx4aが重要なことを見出し報告した(Bertolotti, et al.Antioxid Redox Signal.2010)。また、Touwのグループとの共同研究により、Prx4aがN末ドメインでG-CSF受容体の細胞内ドメインに結合し、そのリン酸化シグナル伝達を抑制的に制御することを明らかにした(Palande et al.論文投稿中)。すなわちG-CSFの受容体への結合によりNADPH Oxidaseが活性化され、生成した活性酸素がシグナルとして働いてリン酸化チロシンボスファターゼ(PTP1B)を一過性に阻害してリン酸化シグナルを増強する。この場合は、Prx4aが過酸化水素を還元し、PTP1Bを酸化から保護することで過剰な応答が起こらないように制御していると考えられる。現在pull-downアッセイによりPrx4aに結合するタンパク質の検索を行っている。
|