研究概要 |
(1)HSP90複合体とユビキチン化によるY-Pol制御機構の解明 DNA損傷応答で誘導されるDNA合成の停止(複製ストレス)を再開させるにはY-family polymerase(Y-Pol)による損傷乗越えDNA合成が重要な役割を持つ。本年度は、Y-Polの一つREV1が、HSP90と特異的に結合し、その結合がHSP90阻害剤で阻害されることを明らかにした。また、HSP90阻害剤やHSP90 RNAiでHSP90機能を阻害すると、細胞の種類に依存して、REV1の不安定性が増加したり、損傷部位への集積が抑制されることが分かった。さらに、不安定性の増加はユビキチン/プロテアソーム系による分解の亢進によるもの、損傷部位への集積抑制はユビキチン化PCNAとの結合抑制によるものであることを明らかにした。 (2)HSF1による細胞老化の制御 HSF1を急性欠乏させると細胞老化が誘導される。がん遺伝子の活性化による細胞老化など、多くの場合、細胞老化にはDNA損傷応答を伴うが、HSF1抑制による細胞老化には、DNA損傷応答の活性化は見られなかった。一方、種々のストレスで誘導した細胞老化で、一般に見られるp53-p21経路の活性化、p16の発現誘導、脱リン酸化型Rb familyの増加は、HSF1抑制で誘導したヒト線維芽細胞の細胞老化でも見られた。興味深いことに、HSF1抑制による細胞老化の誘導は、正常ヒト線維芽細胞だけでなく、p53,Rb,p16などの腫瘍抑制遺伝子を欠損している種々のがん細胞株でも見られた。従って、HSF1抑制による細胞老化過程には、未知の分子機構が関与している可能性がある。
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