研究概要 |
ヒッポ・パスウエイは二種類のセリン・スレオニンキナーゼ(MSTとLATS)とその制御因子を中核分子とするシグナル伝達系で、下流では転写コアクチベーターTAZ、YAPをリン酸化して、両者による細胞周期促進的、細胞死阻止的な遺伝子転写を抑制することで、腫瘍抑制シグナルとして機能している。ショウジョウバエの遺伝学的解析から細胞接着分子、細胞膜裏打ちタンパクが上流の制御分子として位置づけられ、哺乳動物でも接着分子CD44や裏打ちタンパクMerlin、angiomotinが活性制御に関わることを示す知見が得られている。しかしヒッポ・パスウエイのオン・オフ制御の分子レベルでの理解は十分に進んでいない。とくに問題視されるのは、これまでに得られた知見が、ヒッポ・パスウエイの構成分子の過剰発現、あるいは、逆に発現抑制の実験から得られたもので、自然な発現状態のヒッポ・パスウエイのオン・オフ制御と、その結果起こる細胞生物学的出力を、必ずしも反映していないことである。この背景を踏まえて、今年度は、U20S細胞におけるYAPの局在を指標として、ヒッポ・パスウエイを活性化、逆に抑制する薬剤を探索するアセイ系を樹立し、化合物ライブラリーから、それぞれ数十個の候補薬剤を得ている。TAZ,YAPは転写因子TEAD、SMADと相互作用して遺伝子転写を高めるので、TEAD、SMAD応答プロモーターの下でレポーター遺伝子を発現する細胞系を樹立しつつある。このアセイ系を用いて、やはりヒッポ・パスウエイを活性化、逆に抑制する薬剤を探索する予定である。以上の探索から得られる薬剤のうち、ヒッポ・パスウエイを介してTAZ、YAPを制御する薬剤を選別し、その作用点を明らかにすることを通じて、ヒッポ・パスウエイのオン・オフ制御機構を解明する。
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