ヒストンアセチルトランスフェラーゼHbo1(MYST2/KAT7) はJade-1 や ING4/5 とタンパク質複合体を形成し、DNA 複製の開始やヒストンH4のアセチル化を制御する。Hbo1は乳癌を含む一部のがんで過剰発現がみられ、細胞を増殖に向ける働きがあるエビデンスも得られている。しかしながら、Hbo1分子がどのようにがん化に寄与するか、その分子的機構は不明である。乳癌におけるHbo1の役割を追究する目的で、乳癌細胞株 MCF-7 でHbo1 の発現抑制をすると、エストロゲン受容体(ER alpha) タンパク質の発現量が増加するが、mRNA 量は増加しなかった。タンパク合成阻害剤存在下で、Hbo1を発現抑制すると ER alpha タンパク質の安定化を認め、Hbo1 は ER alpha タンパク質の不安定化に働くことが示唆された。外来性に導入された Hbo1/Jade-1/ING4(あるいはING5) 複合体は、著明にER alpha タンパク質の48番目のリシンを介したユビキチン化のレベルを高めるが一方、アセチル化酵素能の欠損したHbo1 (G485A)/Jade-1/ING4(あるいはING5) 複合体は、ER alpha タンパク質のユビキチン化が減少する。このことから、アセチル化酵素能とER alphaユビキチン化能は密接に関連している。また、ER alphaの発現量が増えることから予想されるように、Hbo1 の発現抑制によって、ER alpha 依存性の PS2 や プロゲステロン受容体の発現も増加し、MCF-7細胞のタモキシフェンの感受性もHbo1 の発現抑制によって高まった。ER alpha は乳癌の増殖・進展に重要な役割を果たしていることから、Hbo1 による ER alpha タンパク質の量的制御は乳癌の治療に向けた新しい方向性を示している
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