研究概要 |
クロマチン作用因子であるポリコーム群複合体(PRC1)は様々な分化制御・増殖制御遺伝子を抑制状態に固定することで細胞の運命決定に貢献している.ヒト培養細胞の免疫染色実験はPRC1の分裂期染色体からの解離を示していた.この結果は分裂期後にPRC1が標的遺伝子座上に舞い戻り,抑制状態を維持しつづけることを示している.しかしながら,PRC1による遺伝子座記憶の仕組みは十分に理解されていない.PRC1の遺伝子座記憶(リクルートメント)は抑制機能の上流にあり,極めて重要な研究課題である.したがって,本研究の目的は本質的なPRC1記憶タグの同定とした. すでに我々は,PRC1遺伝子Mel18-GFPノックインマウス(Mel18gfp/gfp)由来の胚性線維芽細胞(MEF)を用いた研究からPRC1が標的遺伝子座上で核内構造体(PRC1 body)を形成することを示していた.したがって,PRC1 bodyをポリコーム群リクルートメントの判断基準とした細胞イメージングにより記憶タグを評価した. ヒストン修飾酵素Ezh2により触媒されるH3K27me3はPRC1リクルートメントに重要であると広く信じられていた.しかしながら,Ezh2遺伝子誘導欠損型細胞を使った免疫染色実験からH3K27me3はPRC1の主要リクルーターでないことが示唆された.ついでPRC1成分Cbx2のDNA結合ドメインAT-hookに注目した.しかし,Cbx2 AT-hook点変異マウスの機能解析は,AT-hookが抑制機能には必須であるがPRC1リクルートメントには重要でないことを示した.PRC1 bodyの構成成分は絶えず置き換わっているが,その一部(約20%)はクロマチンに固定されていることがわかった.この固定画分が分裂期を超えて残り,記憶タグとなっている可能性があると考え,その検証実験に着手した.
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