当該研究の目的は、PHBタンパク質が性ホルモン依存的に核-ミトコンドリア間を移行するという新規な現象を踏まえ、この現象によりもたらされると予測されるミトコンドリア活性調節および核内における転写活性調節の二つを解析により、性ホルモンが肥満等の代謝調節に関与する分子メカニズムを生化学的に解明することである。 平成22年度は、PHB2の各細胞内局在の相互作用分子の網羅的同定を行った。PHB2の細胞内移行の分子メカニズムや新規な核機能を同定する上で、相互作用分子を同定することは、重要なステップである。これまでの解析から、PHB2はN末端から50アミノ酸までの間にミトコンドリア移行シグナルを含んでいること、このN末端領域を欠失すると細胞質と核に局在することを同定している。PHB2の各細胞内局在において結合する相互作用分子を同定するために、C末端にタグを付加した野生型とN末端領域の欠失変異体のPHB2をヒト子宮頚癌由来細胞HeLa細胞に発現させた。これらの細胞から細胞抽出液を調整し、抗タグ抗体を用いて免疫沈降法を行い、それぞれの分子に相互作用する因子を共沈降した。これらのタンパク質を一次元電気泳動法で展開した後、タンパク質を染色・単離し、トリプシンにて前処理後、nano LC-MS/MSを用いた質量分析法にて、PHB2の相互作用分子を網羅的に同定した。その結果、ミトコンドリア移行シグナルを欠失した変異体では、クロマチン構成因子などが多く同定された。一方、全長のPHB2タンパク質を用いた場合では、ミトコンドリアに局在する各種の代謝に関連する酵素も多く同定された。 以上から、PHB2は核とミトコンドリアでそれぞれに機能する多機能分子であると考えられた。
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