当該研究の目的は、PHBタンパク質が性ホルモン依存的に核-ミトコンドリア間を移行するという新規な現象を踏まえ、この現象によりもたらされると予測されるミトコンドリア活性調節および核内における転写活性調節の二つを解析により、性ホルモンが肥満等の代謝調節に関与する分子メカニズムを生化学的に解明することである。 昨年度まで、ミトコンドリアに局在するPHB2が脂肪前駆細胞3T3-L1細胞においてエストロゲン(E2)の添加によって細胞内局在を変化させ、核に移行することを免疫染色にて示した。さらに、E2添加により脂肪が抑制されることを示した。ルシフェラーゼアッセイにより、脂肪分化のマスター遺伝子PPARγのコアクチベータであるPGC1aの活性を抑制し、結果としてPPARγの転写活性を抑制すること、GST pulldown assayにてPHB2とPGC1aは直接結合することを示した。さらに、E2非依存的に核に移行するPHB2変異体(PHB2C)を、レンチウイルスベクターを用いて3T3-L1細胞に導入したところ、脂肪分化が抑制されたことから、PHB2CはPGC1aを介してPPARγの転写活性を抑制することで脂肪分化を抑制することを示した。 平成24年度は、以上の仮説がin vivoでも成立するかを検討するために、閉経後肥満のモデルマウスである卵巣切除(OVX)マウスを用いて検討を行った。OVXマウスでは白色脂肪組織が増大すること、E2投与マウスでは、その肥満が減少することを示した。さらに、白色脂肪組織の内在性のPHB2を免疫組織染色にて検討したところ、E2投与のOVXマウスの白色脂肪組織においては、非投与群に比べPHB2は核に局在していた。以上から、生体においても、E2依存的にPHB2は核に移行し、その結果、脂肪分化が抑制することが示された。これは新たな肥満調節の分子モデルである。
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