我々はシステイン生合成の最終酵素であるcystathionine gamma-lyase(CTH)の遺伝子欠損マウスを作成し、本マウスがシステイン(シスチン)欠乏餌を与えると急性の筋萎縮症を発症することを見出した。3週齢離乳期から与えた場合、約一週間で下肢が麻痺し約二週間で上肢も麻痺してやがて死に至る急激な筋萎縮である。本研究課題ではこの病態モデルにおいて①レントゲンや小動物用CTを用いた解析より大腿直筋や僧帽筋など体幹に近い近位筋が主に萎縮すること、②大腿直筋の横断切片の筋線維細胞には群性萎縮ではなく孤発性萎縮が観察されること、③その切片の免疫染色で筋線維細胞にAutophagosomeの構成成分であるLC3bのドット集積と(特に萎縮した筋繊維細胞において)p62の過剰蓄積が見られること、④大腿直筋や僧帽筋を支配する脊髄領域で前角細胞の脱落など神経原性筋萎縮で見られる変化は確認されないことなどを見出し、本筋萎縮がシステイン不足による筋タンパク質の過度の自食(オートファジー)によるものであることを明らかにした。この激しい筋萎縮がシステイン欠乏時に特徴的か否かを調べるために、9種の必須アミノ酸それぞれを欠失した無タンパク質アミノ酸配合餌を作成し野生型マウスに投与した所、システイン欠乏CTH欠損マウスに匹敵する筋萎縮を示すものとして、Val、Leu、Ileの分枝鎖アミノ酸、Thrの欠乏餌を見出した。しかしそれらはいずれも四肢の麻痺を伴う変化ではなかった。以上の結果より、我々が観察した筋萎縮症は通常は非必須であるシステインが必須アミノ酸となる本病態に特徴的な病態と考えられた。生合成システインはグルタチオンやタウリンなどの主要な抗酸化物質の生合成に利用されるが、CTH欠損マウスでは肝グルタチオンと血中タウリンの濃度が低下しており、酸化ストレスの影響が考えられた。
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