初期化4因子あるいは3因子を用いて線維芽細胞より作製したiPS細胞(正常iPS細胞及びダウン症患者由来iPS細胞)からのSDIA法による神経分化誘導において、神経分化マーカーの一部がダウン症由来DS-iPS細胞群で発現低下していることを前年度までに見いだしていた。今年度は、ヒトES細胞に21番染色体を1本導入して作製した21人工トリソミーES細胞を用いて、同様の神経分化マーカー発現低下が観察されるか検討した。まず、この人工トリソミーES細胞の未分化性を検証したところ、未分化マーカーの発現、in vitro及びin vivo3胚葉分化能が確認できたことから、21トリソミーは多能性には大きな影響を与えないことが明らかにできた。SDIA法による神経分化誘導を行ったところ人工トリソミーES細胞はNESTIN陽性を示しbetaIII-tubulin陽性の神経突起を伸張させたが、元のヒトES細胞に比べて、やはり神経分化マーカーの発現誘導が低下していた。SFEBq法を用いた神経分化誘導系においても神経分化マーカーの発現誘導の抑制が観察された。DS-iPS細胞に加えて21人工トリソミーES細胞においても同じ結果が得られたことから、21番染色体トリソミーにより神経分化のある過程に異常が起こっていることが示唆された。
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