研究概要 |
癌細胞の間質接合面に形成され細胞外基質分解能を持つ浸潤突起は基底膜の破壊・消失を介して浸潤・転移に関係する。これまでの研究で正常気道上皮細胞では細胞の頭頂部に局在する浸潤突起分子actinin1, cortactinが肺腺癌においては癌細胞の基底部/間質面に局在する極性異常が認められ、基底膜の破壊、リンパ節転移と相関することを明らかにした。平成24年度においては癌細胞における浸潤突起分子の極性異常を制御する分子としてフォスファチジルイノシトール(PIPs)の可能性を考え、PIPsとactinin1の肺腺癌細胞内での局在の相関性を検索した。フォスファチジルイノシトールに特異的に結合する蛋白質(cytohesin3/GRP1、Tapp1、phospholipaseCdelta1(PLCD1))と緑色蛍光分子GFPとの融合蛋白、actinin1と赤色蛍光分子RFPとの融合蛋白を培養肺腺癌細胞A549に発現させ、コラーゲンゲルに包埋培養し、共焦点顕微鏡で観察した。その結果、PI3,4結合性のTapp1、PI4,5結合性のPLCD1は細胞膜においてactinin1と相関する局在を示したが、PI3,4,5結合性のGRP1は細胞膜への局在傾向は明らかでなかった。肺癌細胞に見られる浸潤突起分子の極性異常にPI(3,4)P2、PI(4,5)P2が関与している可能性が示唆された。 上皮細胞の極性異常が炎症に伴う組織の修復過程においても役割を担っている可能性を検討するため特発性間質性肺炎IPF/UIPにおける極性分子の発現を免疫組織学的に検索した。その結果、上皮の頭頂部と基底部を仕切る機能によって極性形成に重要な役割を担うtight junction分子が再生気道上皮において極性異常を示しており、上皮細胞の極性の変化が腫瘍以外においても組織の修復過程で関与している可能性が考えられた。
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