前立腺癌ではα-ジストログリカン(α-DG)発現の減少と悪性度との関連が報告されているが、その減少程度は個々の腫瘍により様々である。α-DGはコア蛋白が高度に糖鎖修飾されており、この糖鎖(α-DG糖鎖)がα-DGとしての機能発現に重要である。これまでに、ヒト前立腺癌におけるα-DG糖鎖発現の解析はほとんどなされていない。一方、実験的にはin vitroおよびin vivo(マウス)のレベルで、α-DGコア蛋白の発現が保持されていても糖鎖修飾の低下によりα-DGの機能が低下することが示されている。そこで、ヒト前立腺癌におけるα-DG糖鎖の発現とその意義について明らかにするため、ヒト前立腺癌組織を用い、病理組織学的、免疫組織化学的に解析を行った。 1) α-DG糖鎖発現の解析:様々なGleasonパターンの前立腺癌を対象として、免疫組織化学的にα-DGコア蛋白と糖鎖それぞれの発現を検討した。α-DGコア蛋白は非腫瘍性腺管の殆どと癌の多くに陽性像を認めた。一方、α-DG糖鎖は非腫瘍性腺管の殆どが陽性だが癌は部分的に陽性を示した。癌では全く陰性の部分もあり、124/146例(84.9%)で発現減少を認めた。α-DGコア蛋白、α-DG糖鎖の両者とも、癌では陽性部分が減少するが、コア蛋白の減少と比較すると糖鎖の減少の方がより明瞭であった。 2) α-DG糖鎖の発現と前立腺癌の組織学的グレード(Gleasonパターン)との関連の解析:統計学的に解析した。α-DG糖鎖の減少はGleasonパターンと逆相関がみられた。すなわち、より浸潤性の増殖パターンを示す腫瘍ほど、α-DG糖鎖の減少程度が大きいことがわかった。 以上から、前立腺癌ではα-DG糖鎖の減少は、高いGleasonパターンで表現されるような、より浸潤性の増殖様式に寄与する可能性が考えられた。
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