前立腺癌ではα-ジストログリカン(α-DG)発現の減少と悪性度との関連が報告されている。α-DGはコア蛋白が高度に糖鎖修飾されており、この糖鎖(α-DG糖鎖)がα-DGとしての機能発現に重要である。実験的にはα-DG糖鎖の減少によりα-DG機能が低下することがin vitroおよびin vivo(マウス)のレベルで示されているが、ヒト前立腺癌でのα-DG糖鎖発現の解析はほとんどなされていない。 前年度までに、1)ヒト前立腺癌ではα-DGコア蛋白とα-DG糖鎖の両者とも減少するが、コア蛋白の減少と比較して糖鎖の減少がより高度である、2)α-DG糖鎖の減少はGleasonパターンと逆相関し、より浸潤性の増殖パターンを示す腫瘍ほどα-DG糖鎖の減少程度が大きいこと、を見いだし報告した。この制御機構を調べるため、ヒト前立腺癌の組織切片を用いてα-DG糖鎖発現に必要な糖転移酵素LARGEとβ3GlcNAcT-1の発現を検討し、ISH法にて癌におけるβ3GlcNAcT-1の発現低下を認めた。しかしながら、RT-PCR法では癌と非癌の両者でLARGEとβ3GlcNAcT-1のmRNA発現がみられ、癌と非癌の間に差はみられなかった。 今年度は引き続きα-DG糖鎖発現の制御について、検体や部位を変更し検討を試みたが、LARGEとβ3GlcNAcT-1の発現については前年度までの結果と同様であった。一方、ヒト前立腺癌組織におけるα-DG糖鎖発現について、部位による違いに着目して免疫組織化学的に詳細に再検討した結果、癌組織内のある特定の部位に一致して特徴的な変化を認めた。この部位に関してはα-DG 糖鎖発現が背景の癌組織と異なる症例が約40%程度存在しており、癌細胞と微小環境との関連の上で興味深い。これについては今後さらに研究を進めていく予定である。
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