本研究では腸上皮化生腺管を不完全腸上皮化生腺管(MUC5AC陽性腸上皮化生腺管)とそれ以外の腸上皮化生腺管に分けて胃癌腺管とのメチル化状態の対比を行った。これまでの研究成果として、1) 胃癌周囲粘膜の不完全型腸上皮仮化生腺管とそれ以外の腸上皮化生腺管とのメチル化状態には差異がないことが明らかになった。しかし、胃癌腺管との比較においても、腸上皮化生腺管との間に明らかな差異が指摘できなかった。このことはメチル化の蓄積に関しては、腸上皮化生腺管と胃癌腺管との間の共通の分子異常であることを示している。2) 一方混在している非腸上皮化生腺管ではメチル化の蓄積が低く、メチル化の蓄積は腸上皮化生の発生に関与していることを示している。上記の結果は、腸上皮化生と分化型胃癌の発生にはメチル化の蓄積が共通の分子基盤を形成しているが、癌化の直接の原因ではない可能性を示唆している。3) 不完全型腸上皮化生とそれ以外の腸上皮化生腺管の発生にはメチル化の蓄積状態に差異がないことも示している。一方の癌との違いを解析するためには、腸上皮化生腺管と癌腺管のゲノムレベルの異常を解析することが必要で、現在染色体レベルの異常の関与が腸上皮化生腺管にみられるかどうかを検討したが、腸上皮化生腺管にはloss of heterozygosity (LOH) が各染色体レベルでは散在性にみられるが、LOHの蓄積はみられないことが明らかになった。
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