研究概要 |
細胞増殖や移動能などがんの生物学的特性に関わる新規機能が近年提唱された細胞膜水分子チャネル蛋白aquaporin(AQP)の軟部肉腫の浸潤・転移への役割を明らかにすることを目的に、H23年度は以下の組織におけるAQP1,5遺伝子の蛋白・mRNA発現と局在を調べ、統計学的に解析した:ヒト成人組織10例;ヒト胎児組織3例;良性および低悪性軟部腫瘍27例;ヒト軟部肉腫樹立細胞5株;外科切除された軟部肉腫73例。 1.ヒト成人軟部組織では、AQP1は血管内皮、平滑筋細胞、末梢神経(Schwann細胞)、滑膜被覆細胞、中皮細胞に、AQP5は平滑筋細胞、末梢神経(Schwann細胞)に発現・局在した。 2.ヒト胎児軟部組織では、AQP1,5とも成人組織での発現パターンに加え,増生する骨格筋、心筋、神経節と、AQP1は伸長する足指先端部,AQP5は先進部骨膜に発現・局在を認めた。 3.良性軟部腫瘍では神経鞘腫にAQP1,5の,平滑筋腫にAQP5の発現を認めた。AQP1は皮膚線維腫では陰性だったが低悪性の隆起性皮膚線維肉腫DFSPでは2/9例で浸潤先進部腫瘍細胞に陽性所見を認めた。 4.ヒト軟部肉腫樹立細胞株では横紋筋肉腫細胞にAQP1の、平滑筋肉腫細胞にAQP5の発現が蛋白およびmRNAレベルで観察された。AQP1は細胞突起部細胞膜に一致した発現を認めた。 5.軟部肉腫37例(50.7%)にAQP1の、29例(39.7%)にAQP5の発現を認め、western blot及びreal time RT-PCRによる解析で検証された。AQP1は浸潤部細胞突起に一致した高発現を示した。成人・胎児軟部組織と良性腫瘍における発現との比較から、平滑筋・Schwann細胞への細胞分化に伴う発現と細胞増殖、移動・浸潤など悪性腫瘍の細胞特性に伴う発現に分類された。後者の発現パターン群(AQP1 and/or AQP5陽性)では累積生存率の有意な短縮を認めるとともに(p=0.005)、独立した予後因子であることが多変量解析で示された。 以上の結果から、AQP1,5は軟部肉腫の浸潤・転移機構において重要な役割を演じている可能性が示唆され,軟部肉腫の肺転移阻止法の確立への有望な分子であると考えられた。
|