研究概要 |
胃癌は加齢とともに発生率が急増する代表的ながんであり,その発癌経路は大腸癌と同様に染色体不安定性とマイクロサテライト不安定性(MSI)の2つに大別できる.高齢者胃癌では染色体不安定性経路が優位であるものの,加齢とともにMSI経路の比率が増加し,80歳代では胃癌発生数の約1/3に達する.MSIを示す胃癌の発生にはミスマッチ修復遺伝子プロモーター領域のメチル化が関与する.一方,microRNA(miRNA)は転写後レベルで標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する.癌化過程でのCpG islandのメチル化により,ミスマッチ修復系遺伝子とともにmiRNAの発現も抑制されている可能性がある.そこで,加齢とともに増加するメチル化・MSIを示す胃癌の発生にmiRNA発現のエピジェネティック制御がどう関与するかを明らかにする目的で,高齢者胃癌におけるmiRNA発現プロファイルとMSIとの関係を検討した.高齢者によくみられる充実型低分化腺癌4例を含む胃癌手術例10例(男性8例,女性2例,75~85歳)を対象として,腫瘍と非腫瘍部粘膜から抽出したRNAを用い網羅的にスクリーニングした.その結果,高齢者胃癌で正常粘膜より発現が亢進しているmiRNAは,miR-106a,106b,126,21,1290,1249,10a,1247,107,103であった.一方,発現が現象しているものは,miR-133b,125b,193a-5p,29c,125-5p,100であった.このうちmiR-133bの発現減弱は,MSIを示す充実型低分化腺癌との関連性が示唆された.以上より,miRNAの一部はMSIと関連し,臨床病理学的特徴に影響を与える可能性が示唆された.
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