本年度は代表的な転座関連型軟部肉腫である滑膜肉腫とユーイング腫瘍を対象とし、それらの凍結腫瘍組織(各10例)及び対照としての正常骨格筋組織(5例)からmicroRNAを抽出・精製後、microRNAマイクロアレイ(東レ)を用いてmicroRNAの発現状況を網羅的に調査したところ、これらの腫瘍では互いに異なったmicroRNAの発現パターンが認められた。このことは両腫瘍が部分的に共通した臨床病理学的特徴を有するにも関わらず互いに独立した疾患単位であることを支持している。さらに、検索した700種以上のmicroRNAのうち滑膜肉腫では112種において正常組織(骨格筋)と比較して顕著な発現の変動(増強55種、減弱57種)が認められたことに加え、骨格筋分化と特に関係があるとされるmicroRNA(miR-1、miR-133、miR-206など)の発現が滑膜肉腫で減弱していたことは、近年提唱された滑膜肉腫の骨格筋組織起源説とは相反しており、本腫瘍が目下分化の不明な軟部腫瘍として位置づけられていることと矛盾しない。なお、滑膜肉腫において発現の増加が顕著であったmicroRNAのうちmiR-154を対象として定量的RT-PCR法によりその発現を異なる10例の滑膜肉腫で検索したところ、その発現レベルはmicroRNAマイクロアレイによる結果とかなり相関していた。また、脂肪肉腫などの他の組織型の腫瘍(6種、計18例)における結果と比較してもmiR-154の発現が高度であり、このmicroRNAが滑膜肉腫のマーカーとなりうる可能性が示唆された。さらに、変動の顕著であったmicroRNAの中には同じ染色体部位に遺伝子が存在するものがいくつか見出された(let-7e、miR-99b、miR-125a-3pなど)。今後はこれらのmicroRNAの生物学的機能についても検索を進めていく予定である。
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