研究概要 |
本年度は脱分化型脂肪肉腫を対象とし、同腫瘍と他の軟部腫瘍(10種類)の組織を用いて、脂肪分化を制御しているとされるcalreticulinの発現状況を調査したところ、脱分化型脂肪肉腫の脱分化部においてこの蛋白が過剰に発現していることを新たに見出した。なお、同腫瘍におけるcalreticulin遺伝子(CALR)の増幅は認められず、epigeneticなメカニズムによってcalreticulinの過剰発現が惹起されている可能性が考慮されたことから、その発現を制御すると推定されるmiRNAについて調査した。mRNA配列における予測解析により、CALRを標的とする可能性がある約200種類のmiRNAが抽出されたが、その中でも塩基配列の相同性や自由エネルギーの状況などから、より候補としての可能性が高いと判断された4種(miR-149*,miR-765,miR-1226*,miR-1275)を選択し、real-time RT-PCRを用いて定量的に発現を検討したところ、miR-1275が脱分化型脂肪肉腫において他の腫瘍よりも有意に発現が低下していることが示された。このことから脂肪肉腫における脱分化現象にはmiRNAを介したcalreticulinの発現異常が関与していることが示唆された。また、calreticulinの発現を強制的に抑制すると同肉腫細胞株は脂肪分化を獲得し、細胞増殖能も低下したことから、calreticulinがこの肉腫の治療標的として今後利用できる可能性が考えられた。一方、miRNAの他の機能を探るため、膵癌組織を用いてmiRNAの網羅的発現解析を行ったところ、miR-21がこの癌において最も発現が顕著であり、不良な予後と相関していた。miR-21の標的遺伝子の候補としてTIMP3やPDCD4などの腫瘍抑制遺伝子が指摘されているため、それらの発現を膵癌組織で調査したところ、膵癌においてもmiR-21の過剰発現とTIMP3やPDCD4の発現低下が相関していることが示され、miR-21の発現異常がTIMP3やPDCD4の抑制を介して、膵癌の進展に関わっている可能性を示すことができた。
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