研究概要 |
昨年度は、LPS刺激により発現が急激に減少するTxnip遺伝子の発現抑制がTxnip転写開始点より176塩基上流までに存在するグルコース応答領域が必須であることを明らかにし、LPS刺激に応答して、細胞は解糖系を活性化する可能性を示した。最終年度である本年度は、その検証と分子メカニズムにアプローチすることを中心に研究を進めた。MondoAのTxnip遺伝子プロモーター部位への結合の調節にはLPS刺激で活性化される既知のシグナル経路は関与していないこと、解糖系の阻害によりTxnip遺伝子の発現抑制が回復することなどから、LPS刺激によるTxnip遺伝子の発現抑制は、解糖系の活性化が引き起こす細胞内のグルコース代謝産物の濃度の低下を反映した現象であることがわかった。実際にTxnip遺伝子を強制発現した場合、LPS刺激時の遺伝子発現誘導が大きく影響を受けることからも、この結果は、近年指摘されている炎症と代謝の関連性を支持するものであり、Txnip遺伝子が、生活習慣病や炎症性疾患の予防、治療の有力な分子標的候補であることを示している(Kanari et al., PlosOne 8(3) e59026 2013)。 Txnip遺伝子の発現制御機構の解明による培養条件の改善により、Txnip遺伝子過剰発現細胞の作成と維持が可能となり、LPS刺激依存的なTxnip遺伝子発現抑制のもつ生理学的が意義をサイトカインやケモカインの産生を指標に詳細な解析を進めた。自然免疫刺激時のTxnip遺伝子の発現抑制の解除は、自然免疫刺激時に見られる解糖系への代謝切り替えを抑制し、その後のサイトカインやケモカインの産生に大きな影響を与えていることを示唆する結果を得た。今後はTLRから代謝の切り替えへ至るシグナル経路とその分子機序の解明を目指して継続して研究を進める。
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