研究課題/領域番号 |
22590352
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
河原 佐智代 近畿大学, 医学部, 講師 (60297629)
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研究分担者 |
宮澤 正顯 近畿大学, 医学部, 教授 (60167757)
博多 義之 近畿大学, 医学部, 助教 (30344500)
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キーワード | APOBEC3 / 内在性レトロウイルス / 発がん制御 / 乳癌 / リンパ腫 / 白血病 |
研究概要 |
APOBEC3蛋白はレトロウイルスの逆転写産物を標的にしてその複製を制御する核酸変異挿入因子であるが、我々はこれまでにフレンド白血病ウイルスに感染抵抗性のB6マウス系統に発現するAPOBEC3バリアントが、同種肉来レトロウイルスの複製を生体内で強く抑制することを示し、外来性レトロウイルス複製制御におけるAPOBEC3の生理機能を明らかにしてきた。一方、APOBEC3蛋白の内在性レトロウイルスへの影響としては、レトロトランスポゾンの転移を制御することが試験管内実験で示唆されているものの、生体内でAPOBEC3蛋白が同様に機能しているかは不明である。 我々は、APOBEC3を欠損したB6マウスでは生後8カ月を過ぎてから野生型マウスに較べて高い乳癌の発症率を示すこと、その発症は経産マウスでのみ認められることを見出した。またAPOBEC3欠損マウスの一部ではリンパ腫および白血病の発症を認めた。APOBEC3蛋白はリンパ組織や骨髄に多く発現しており、また乳腺上皮細胞にも検出されることから、APOBEC3がマウス内在性レトロウイルスであるMuLVやMMTVの発現制御に関与している可能性は大きいと考える。今年度までに我々は、発症したAPOBEC3欠損個体から腫瘍部位、骨髄、リンパ節及び末梢血細胞を採取し、組織染色や免疫染色によりがん細胞の同定を行ってきた。現在、それら臓器・組織における内在性レトロウイルスの発現を抗体染色及び分子生物学手法を用いて解析中である。 これに加えて、B6マウス系統ではAPOBEC3が蛋白レベルで極めて高く発現していることをAPOBEC3遺伝子の多型部位から明らかにした。APO8EC3蛋白の発現レベルが内在性レトロウイルスの発現・転移の制御にも重要であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
APOBEC欠損マウスは出産・授乳を経て、さらに生後8カ月を過ぎてからがんを発症すること、経産マウスのうちの10数パーセントという発症率であることから、サンプリングに時間が掛かる。また、レトロウイルスの様々な断片が宿主染色体には数多く存在していることから、転移活性化した内在性レトロウイルスの検出にはそれを考慮した緻密な解析が必要となる。これらの理由から本研究の進展が当初の計画よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
APOBEC3欠損マウスにおいてリンパ腫だけでなく乳がんの発症を認めたことから、MuLVのみならずMMTVの検出が必要となったことが大きく変更となったところであるが、それに関しては分子生物学的解析のみならず、MMTV検出用の抗体も入手して解析を進めていく。
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