今年度末において論文報告できたもののうち、以下の2点について記す。 1. 正確な染色体分離が行われる上で重要な役割を果たす分子であるヒトシュゴシン(SGOL1)について、これまでにその発現抑制により中心体過剰複製が誘導されることなどを報告してきたが、更に次の結果を得た。大腸がんにおいて腫瘍部特異的に、SGOL1のエクソン3を欠いた新規バリアントSGOL1-P1が発現していた。SGOL1-P1を大腸がん細胞株HCT116で過剰発現させると、染色体の配列異常、早期染色体分離、M期進行の遅延、中心体過剰複製を示す細胞が増加し、染色体数の不安定性につながった。これらは、siRNA法によるSGOL1発現低下でもみられた。また、SGOL1-P1の過剰発現は、内在性SGOL1およびコヒーシンサブユニットRAD21/SCC1のセントロメア局在を阻害した。以上のことから、SGOL1-P1は、大腸がん細胞において、内在性SGOL1の阻害因子としてはたらき、染色体不安定性を引き起こすことが示唆された。 2. Bリンパ球に発現し抗体多様性に関わることが知られていたAID遺伝子が、ヒト肺がん細胞株および原発性肺がんの一部で発現していることを明らかにした。AIDを肺がん細胞株H1299で過剰発現させると、5.0-6.1倍高い突然変異率を示した。また、129例の原発性肺がん検体での解析で、AID蛋白質発現レベルは、p53変異の有無と関連性を示した。さらに、AIDの一部は中心体に存在することを明らかにした。以上のことから、中心体にも存在するAIDの発現は、その変異誘発能により一部の肺がんに関わることが示唆された。AIDの中心体制御能については検討中である。
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