1.乳腺の類器官モデルとして、マウス乳腺由来のEph4およびその亜株 J3B1細胞にId4遺伝子を導入したが、形態変化は見られなかった。内因性の蛋白質量はイヌ腎尿細管由来のMDCK細胞・乳腺細胞株でも同等であったが、乳腺細胞では外因性の蛋白質の発現量が内因性のものより低いことが確認された。そのため、外因性Id4の内因性蛋白質よりも発現が高いMDCK細胞のモデルに戻った。何かのストレスに対して耐性であることが難治癌になると考え、類器官で紫外線照射を加えると、親株では細胞死が認められるのに対し、Id4を発現する細胞では耐性を示す傾向が認められた。しかし、定量PCRによってmRNAの発現を調べてみたが、Id4の発現によってBRCA1が増加することはなく、MDCK細胞におけるId4の機能はBRCAと関連がないことが示唆された。 2.任意のポイントで発現誘導や局在変化をさせるMDCK細胞を用いた類器官システムを活用した。低分子量G蛋白質Rac1の活性化型では内腔に細胞が満ちるという形態変化が誘導されるが、MDCK細胞に乳腺の過形成や癌で発現すると報告のあるRac1bを発現させても、形態・細胞周期に与える影響がごくわずかに認められるが有意ではなかった。癌の悪性化・転移に関連する可能性を考え、外科材料でのRac1bの局在を検出す抗体の作成を試みたが、特異的抗体を作製することは出来なかった。 3.MDCKのRac1の頂部での活性を抑える分子としてキメリンを同定し、その発現低下で内腔に細胞が満ちることを確認した。 4.膵癌で見られる活性化型Rasを導入し、細胞が内腔に満ちる形態変化は下流分子であるERKとPI3K依存的であり、細胞周期の進行・アポトーシスの抑制が重要であることを証明した。以上の結果(2-4)については英文論文にて発表した。
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