補体5因子aフラグメント(C5a)の癌細胞への作用の可能性を探索するために、手術摘出ヒト癌組織のC5aリセプター(C5aR)免疫染色を行った。扁平上皮癌(食道癌)、移行上皮癌(膀胱癌)、腺癌(胃、膵、胆管、肝、大腸、肺癌、腎臓、前立腺、乳癌)において、種々の陽性率でC5aR発現が認められた。なかでも、大腸、胆管、前立腺、腎臓癌では50%以上の症例が陽性であった。次に癌細胞株でのC5aR発現をPCRによるmRNAとウェスタンブロッティングによるタンパク質発現で調べると、腸癌細胞5種類のうち3種、胆管癌細胞では6種類のうちMECのみが両方の発現がみられ、flow cytometryにより細胞膜に存在することが確認された。そこで、胆管癌細胞株MECとC5aR陰性のHuCCT1、これにC5aRを発現させたHuCCT1-C5aR(+)を使って、C5a刺激による細胞形態の変化をF-アクチンの蛍光ラベルによって観察した。MECとHuCCT1-C5aR(+)細胞では100nMのC5a添加によって、ストレスファイバーの出現やフィロポディアやラメリポディアがみられたが、HuCCT1-mockでは変化を認めなかった。また、C5aによる細胞運動の活性化をMatrigel invasion assayで測定すると、C5a濃度に相関してC5aR陽性細胞のみ運動性の亢進がみとめられ、このC5a作用はC5aR抗体やmatrix metalloprotease (MMP)インヒビターで抑制された。C5aは癌細胞からのMMP放出を増加させた。以上の結果から、C5aはC5aR陽性癌細胞の運動性をたかめ、さらにMMP放出を増加させて癌細胞の間質への浸潤を亢進することが明らかになった。さらに、ヒトのC5aR陽性癌細胞でもC5aによって癌細胞の運動性と浸潤性を促進していることが示唆された。
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