TAX1BP1は自然免疫の活性制御を担当する重要な因子であり、TAX1BP1の機能不全による慢性炎症の病態形成について以前報告したが、本研究事業を通じて病態形成機序の理解に非常に重要な知見3点を得た。 1.TAX1BP1欠損マウスが加齢に応じて来す全身性の慢性炎症傾向は、炎症性サイトカイン・組織再生促進因子などを含む428遺伝子の過剰発現の結果であり、それらの発現誘導には通常は全く無害と考えられている共生細菌が関わっていた。 2.TAX1BP1欠損マウスは6月齢以降突然死の傾向が有意に高まるが、心機能測定の結果著しいPQ間隔の延長が観察され、伝導障害による突然死発生の機序をある程度解明できた。 3.上記二病態は3ヶ月間の抗菌薬投与により回避されたことから、通常急速に病態が悪化する感染性心内膜炎とは異なり、TAX1BP1を含む4つ遺伝子群(他にA20、ITCH、RNF11)で形成される炎症抑制複合体に、変異若しくは一塩基多型が存在することで同様の病態がヒトにおいても形成される可能性が示唆された。 厚労省統計による平成23年度死亡者数125万例中、循環器疾患(心疾患・脳血管疾患)による割合は25.4%にも上る。臨床研究から得られた最近の知見から免疫細胞の不必要な活性化が血管内膜炎の主な原因として認知されるようになった。この「免疫細胞の不必要な活性化」の機序について、いまだ全貌が明らかになったとは言えず、今回我々が実験動物を用いて実証したTAX1BP1関連遺伝子群の制御不全による心機能障害とそれに続く突然死が、実際の臨床例にも存在する可能性を提示することが出来た。
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