研究概要 |
本研究の目的は血管内皮増殖因子(VEGF)の作用機序を応用した肺癌や悪性中皮腫の治療法の開発である。まず、VEGF-Aの発現機序に着目し、肺癌においてVEGF-Aの発現に転写因子であるEgr-1(early growth response-1) が強く関与していることを示し、さらに、Egr-1を制御する因子としてEgr-1のcorepressorであるNAB2が関係していることを明らかにした (Shimoyamada H. et al. Am J Pathol 2010, 177:70-83)。 次にC57/BL6マウスに由来する肺癌細胞(Lewis LC)を使用した「肺癌進展モデル」に加えて同系マウスの肺腺癌細胞CMT6461を使用した「肺癌進展モデル」も作成した。CMT6461はLewisに比べて、遺伝子導入による各mVEGFsの発現効率が高く、形態的にも腺癌に近く、病理組織学的に評価しやすい。マウスのmVEGF-A,C,D (mVEGFs) を選択的に高発現させたLewisとCMT6461をC57/BL6マウスとヌードマウスの尾静脈に接種し、その後の胸水の性状、肺内腫瘍や胸膜播種形成の病理組織像とVEGFs発現の関係等を検証した。VEGF-CやVEGF-Dを発現させた肺腫瘍では胸膜付近のリンパ管侵襲傾向が強く、腺管傾向に乏しい低分化型腺癌の成分の混在が多い傾向が見られ、これらのVEGFsは脈管侵襲や胸膜播種のみならず、肺癌の分化傾向との関連性が考えられる。現在、更なる病理組織学的解析を続けている。 この実験モデルは前述の研究成果で明らかになったEgr-1とVEGF-A、およびNAB2の関連を検証する上でも有効であると考えられた。NAB2によるVEGFs(特にVEGF-A)の発現抑制効果が期待でき、NAB2による肺癌および中皮腫進展の治療効果が検証できる。
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