粘液型脂肪肉腫では、染色体転座に起因するTLS-CHOPキメラがん遺伝子産物が腫瘍発生において重要な役割を担うと考えられているが、その具体的なメカニズムについてはまだ不明である。一方、TLS-CHOPの下流の分子として腫瘍化活性を有するPRG4が同定されており、また、申請者らはTLS-CHOPががん抑制遺伝子の発現を抑制することを示唆するデータを得ている。そこで本研究では、PRG4の腫瘍化における分子機能及び、TLS-CHOPのがん抑制遺伝子発現抑制のメカニズムを解明し、診断と治療への応用を目指す。 1. TLS-CHOPによるがん抑制遺伝子MDA-7の発現抑制機構の解明。 MDA-7発現抑制に介在すると予想されるmicroRNA群の選定を行い、それらに特異的な阻害作用を持つmicroRNA knockdown probeを用いて検討した。また、MDA-7発現ベクターを用いて、MDA-7が粘液型脂肪肉腫に対しても抗腫瘍効果を持つことを検証した。その結果、knockdown probeと発現ベクターで共に粘液型脂肪肉腫由来培養細胞に増殖抑制効果が見られたが、その際のMDA-7発現量の増加は抗体の感度の問題で未確認であり、引き続き検討中である。 2. PRG4の腫瘍化機構の解明。 ヒトPRG4には6種のvariantが知られているが、粘液型脂肪肉腫ではvariantCのみが強く発現していることを発見した。現在、各バリアントの機能の違いを検討するために、それらの発現ベクターを作成中である。PRG4のORFは約4200bpの長さで、内部に長い繰り返し配列の領域を持つためか、PCRを用いたクローニングが困難であったが、適切なPCR primerの選定と、PRG4の全長を分割してクローニングしその後再構成するという手法をとることで、その困難は克服しつつある。
|