研究概要 |
悪性中皮腫においてがん遺伝子YAPは遺伝子増幅による過剰発現あるいは制御経路であるNF2→Hippo経路の破綻により活性化していると考えられる。本年度は中皮腫検体および細胞株におけるYAPおよびHippo経路に関与する分子の異常についてシークエンス、FISH法およびアレイCGH法を用いて詳細な解析を行った。中皮腫検体25例および20細胞株の解析でHippo経路の構成分子であるLATS2遺伝子のホモ欠失が中皮腫検体では2症例で、細胞株においては6細胞株で検出された。また遺伝子異常として中皮腫検体の1症例でスプライシングアクセプターサイトの変異が、1中皮腫細胞株でナンセンス変異が確認された。LATS2遺伝子の異常は全体では約22%の症例で検出された。他のHippo経路に関与する分子の異常としてSAV1のホモ欠失が1細胞株で見られた。細胞株においては20細胞株中NF2, LATS2およびSAV1のいずれかの異常が15細胞株(75%)で検出されることを明らかにした。YAPのリン酸化(不活性化)は細胞密度依存性に起こることが報告されており、NF2→Hippo経路に異常が見られない正常中皮細胞由来の細胞株MeT-5Aではコンフルエント(高密度)な状態においてYAPのリン酸化の上昇がみられYAPは主に細胞質に局在を示していた。一方、LATS2が不活化している細胞株においては細胞密度依存性のYAPのリン酸化は減弱しており高密度の状態においても主に核に局在を示しており、細胞密度依存性のYAPの活性化の制御が破綻していることが示された。LATS2遺伝子に異常を有する細胞株に野生型のLATS2遺伝子を導入することによりYAPのリン酸化がみられ、さらに増殖の抑制がみられた。以上よりLATS2は腫瘍抑制遺伝子として機能していることが示唆され、悪性中皮腫において高頻度なNF2→Hippo経路の破綻がYAPの恒常的な活性化を引き起こし腫瘍形成に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。
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