研究概要 |
悪性中皮腫においてNF2→Hippo経路に関わる分子の遺伝子異常が高頻度にみられることを明らかにし、この経路の破綻ががん遺伝子であるYAP(Yes-associated protein)の恒常的な活性化を引き起こし腫瘍形成に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。本年度はNF2→Hippo経路に異常を有する中皮腫細胞株においてYAPおよび相同性を有するTAZをレンチウイルスの系を用いてノックダウンし細胞の増殖、運動・浸潤能に与える影響について評価を行った。増殖能の評価にはMTTアッセイ、FACSによる細胞周期解析を用い、運動・浸潤能についてはそれぞれトランスウェルチャンバーとマトリゲルチャンバーを用いて測定した。NF2あるいはLATS2に遺伝子異常を有する細胞株では、YAPのリン酸化が低下している傾向にあり、細胞密度依存性のYAPの核外移行の低下がみられた。NF2がホモ欠失しているNCI-H290、LATS2遺伝子に異常を有するY-MESO-27,Y-MESO-30の3つの細胞株においてYAPあるいはTAZのノックダウンを行った結果、YAPのノックダウンにより3つの細胞株において細胞の増殖および運動・浸潤能の低下がみられた。TAZのノックダウンでは3つの細胞株で運動・浸潤能の低下がみられ、増殖能に関してはYAPと比較すると効果は弱いものであった。ノックダウンした細胞よりmRNAを抽出し、発現アレイを行い、発現の変化する遺伝子群の同定を試みた。3つの細胞株で共通して発現の変化する遺伝子群(約200)が同定された。これらの遺伝子群はGene ontology、パスウェイ解析により細胞周期の制御との関連性が示唆された。YAPは細胞周期の進行に関与する遺伝子群を標的とし細胞の増殖に関与する可能性が考えられた。
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