研究概要 |
扁形動物門に属す条虫類は寄生生活を営み、その一部はヒトや家畜の病原体となっている。扁形動物はDNAデータベースに登録されている核遺伝子の件数が少ないため、従来、その系統関係はミトコンドリアDNAによって解析されてきた。しかし、母系遺伝のマーカーであることから、信頼性が疑問視されることがあった。また、集団遺伝解析に於いてもミトコンドリアDNAマーカーだけでは不十分であることから、条虫類で使用できる新たな核DNAマーカーの開発が待たれていた。本研究では核遺伝子のなかでもシングルローカスであり、共通祖先からの種分化に由来するオルソロガスな蛋白遺伝子に着目した。当該年度では先ず幾つかの候補遺伝子を増幅するためのPCRプライマーを作成することに焦点を定めて研究を進めた。サンガーセンターで進行中の多包条虫ゲノムプロジェクトのデータを参照しつつ、候補遺伝子としてRNA polymerase II second largest subullit (rpb2), phosphoenolpyruvate carboxykinase (pepck), DNA Polymerase delta (pold), elongation factor 1 alpha (efla), ezrin-radixin-moesin-like protein(elp)を選出した。アミノ酸の保存性の高い領域からPCRプライマーセットを作成し、少なくともテニア属とエキノコックス属に於いては種の違いに関わらず、標的遺伝子を増幅することに成功した。今後、これらの核DNAマーカーを用いてテニア属とエキノコックス属の進化系統樹を作成する。また、エキノコックス属のなかで種の基準があいまいなE.canadensisのグループに関してこれらのマーカーを用いて集団遺伝学的解析を実施し、E.canadensisの分類改訂の参考資料とする。
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