条虫類の系統分類や集団遺伝解析に用いる核DNAマーカーの開発を目的とし、RNA polymerase II second largest subunit(rpb2)、phosphoenolpyruvate carboxykinase(pepck)、DNA polymerase delta(pold)の蛋白遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定して、条虫類一般に用いることができるPCRプライマーを設計できた。また、エキノコックス属の系統関係を解析するために短鎖散在反復配列(SINE、short interspersed element)のクローニングを試みたが、適当なものを分離することができず、SINE用PCRプライマーの設計には失敗した。しかし、核蛋白遺伝子マーカーはシングルローカスであると考えられたため、これらを用い、さらに核18Sリボソーム遺伝子の解析も加え、エキノコックス属とテニア属の系統関係を推定することができた。特にテニア属は側系統群であることが判明したため、属の改訂に着手した。Taenia taeniaeformisとその近縁種には、テニア属のシノニムとされていたHydatigera 属を復活させ、Taenia mustelaeにはVersteria属を新設した。この分類学的改訂によって、テニア属として残ったグループがあるが、これは2つの単系統群を内包しているため、今後、解析タクサの数を増やして、更なる改訂を行なう予定である。
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