蚊によって媒介されたマラリア原虫(スポロゾイト)は、血管を通ってまず最初に肝細胞に寄生する。本課題は、スポロゾイト先端部小器官ロプトリーに着目し、ここに貯蔵される原虫タンパク質の肝細胞寄生における役割を明らかにすることを目的とし、本年度は以下の研究を実施した。 肝臓感染におけるロプトリー分子の機能を解析するために、スポロゾイト期特異的にタンパク質発現を欠損させる遺伝子組み換え原虫の作出が必須となる。そこで、標的遺伝子のプロモーターを赤血球ステージ特異的に発現する遺伝子のプロモーターと置換する方法を考案した。トランスクリプトームデータを参考に、3つの遺伝子を選択し、既知のロプトリー分子のプロモーター領域と置換した組換え原虫を作出した。それぞれの原虫で生活環を通じた標的タンパク質の発現解析を行った結果、赤血球ステージでは正常であるもののスポロゾイトではタンパク質発現が抑制された原虫が一種類得られた。現在この組換え原虫の表現型解析を行っている。 さらに、肝細胞寄生に関与する可能性のあるロプトリー候補分子を広く探索する目的で、赤血球ステージでの発現が知られる分子群のスポロゾイト時期における転写をRT-PCR法により解析した。その結果、調べた13の遺伝子すべてが、中腸に形成されるスポロゾイトで転写されていることを見出した。一方で、肝細胞寄生能を有する唾液腺に集積したスポロゾイトでは、すべての遺伝子の転写が検出されなかった。これらのタンパク発現プロファイル、局在を解析するために、mycタグとの融合タンパクを発現する組換え原虫を作出し、解析を行っている。 今後は、今年度確立することができた「肝臓感染におけるロプトリー局在タンパク質の機能解析系」を用い、さらに得られた候補分子を加えて、肝細胞寄生の分子基盤の解明に取り組む予定である。
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