研究課題/領域番号 |
22590379
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
石野 智子 愛媛大学, 大学院・医学系研究科, 准教授 (40402680)
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キーワード | マラリア原虫 / スポロゾイト / ロプトリー / 時期特異的遺伝子欠損原虫 / 唾液腺侵入 / 免疫電顕解析 |
研究概要 |
蚊の唾液腺から放出されたマラリア原虫(スポロゾイト)は、血管を通って最初に肝細胞に寄生する。これがほ乳類への感染成立段階ということができ、感染阻止法開発の観点からも標的細胞侵入機構の解明が期待されているが、なお不明な点が多く残されている。スポロゾイト先端部小器官ロプトリーに着目し、ここに貯蔵される原虫タンパク質の標的細胞侵入における役割をステージ特異的機能欠損原虫の作出により明らかにすることを目的とする。本年度は以下の研究を実施した。 1.スポロゾイト時期特異的RON2遺伝子発現抑制組換え原虫(以下RON2-cKDと記載)を作出し、その表現型を解析した。その結果、スポロゾイトが蚊の唾液腺に侵入する際にRON2が重要な役割を果たしていることを明らかにした。すなわち、蚊の体内で形成されるスポロゾィトの数は正常であるが、唾液腺から回収されるスポロゾイトの数が、RON2-cKD株では顕著に減少することを見出した。さらに、蚊の体液から回収したRON2-cKDスポロゾイトをラットに静脈投与したところ、感染を引き起こせなかったことから、RON2が肝臓感染にも関わることが明らかとなった。この結果は、逆遺伝学を用いてRON2の細胞侵入における役割を示した初めての例である。 2.既知のメロゾイトにおけるロプトリー分子のうち、スポロゾイトで遺伝子発現が認められた10種類について、C-mycタグをつけた組換えタンパク質を発現する原虫を作出した。坑C-myc抗体を用いて、western blotting,蛍光抗体法、および免疫電顕法を行い、その発現、局在を解析した。また、他の2種類のロプトリー候補分子については、特異抗体を作出して上記の解析を行った。その結果、8つの分子についてスポロゾイトでもロプトリーへの局在が認めちれた。一方で、ステージ間で局在やプロセシングが異なる分子も見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予測していたのとは異なり、RON2欠損スポロゾイトが唾液腺に侵入できないという表現型を示したが、非常に明確な結果であり、スポロゾイトが唾液腺に侵入するのにRON2が必要であることを初めて明らかにした。またその機構がメロゾイトの赤血球侵入の際に使われるものと共通である可能性を示唆した点で非常に新しい。一方で、肝細胞への侵入に関しては、最終年度となる次年度に持ち越すことになるが、その解析系は確立しているので問題はないと思われる。今回複数の分子が、スポロゾイトのロプトリーに局在することを明らかにしたので、順次、スポロゾイト特異的遺伝子発現抑制原虫を作出して、ロプトリー分子群の機能を総括的に解析して行く準備が整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、引き続きRON2の肝臓感染時の役割の解析を行う。具体的には、スポロゾイトの「細胞通過」あるいは「細胞寄生」のどちらにRON2が関与するのか、in vitvoの培養系を用いて検討する。さらに、前年度までに明らかにした、他のロプトリー分子を、既に開発したスポロゾイト時期特異的遺伝子発現抑制法により、順次欠損スポロゾイトの機能解析を行う。例えば、ロプトリー形成、唾液腺侵入、肝細胞侵入に関わる分子に分類し、ロプトリー分子群の機能を包括的に理解する。
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