蚊の唾液腺から放出されたマラリア原虫(スポロゾイト)は、血管を通って最初に肝細胞に寄生する。これがほ乳類への感染成立段階ということができ、感染阻止法開発の観点からも標的細胞侵入機構の解明が期待されているが、なお不明な点が多く残されている。スポロゾイト先端部小器官ロプトリーに着目し、ここに貯蔵される原虫タンパク質の標的細胞侵入における役割をステージ特異的機能欠損原虫の作出により明らかにすることを目的とする。これまでに、赤血球侵入ステージ(メロゾイト)とスポロゾイトのロプトリーに共通に発現する分泌型タンパク質を複数見いだすことに成功している。また、スポロゾイト時期特異的に遺伝子発現を抑制する方法を開発したことで、RON2(rhoptry neck protein 2)が唾液腺侵入に重要な役割を果たすことを明らかにしてきた。本年度は、スポロゾイト時期特異的ron2発現抑制原虫のほ乳類に対する感染性を解析することで、スポロゾイトのRON2の機能を解明することを目標に研究を遂行した。 スポロゾイト時期特異的ron2発現抑制原虫を蚊に感染させたのち、24日目に唾液腺からスポロゾイトを回収する。RON2が唾液腺侵入に関与する為に、回収できるスポロゾイトの数は少ないが、解剖する蚊の数を増やすことで克服した。得られたスポロゾイトをwistar ratの尾に静脈投与し、感染赤血球の割合を経時的に計測した。野生型スポロゾイトが100%感染を引き起こす数でも、ron2抑制スポロゾイトでは感染を引き起こせなかったことから、RON2は唾液腺侵入のみならず、ほ乳類の肝臓への感染にも関わることを明らかにした。また、新たにスポロゾイトのロプトリーに局在することを明らかにした3つの分子についても、スポロゾイト時期特異的遺伝子発現抑制原虫の作出に成功したので、今後機能が明らかになることが期待される。
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