研究概要 |
ダニや昆虫などの節足動物は,獲得免疫をもたず自然免疫のみで感染防御を行なっている。こうした節足動物は種の多様性に富み全動物種の8割以上を占めるまでに繁栄している。繁栄をもたらした要因にひとつに感染防御における自然免疫機構があげられる。この中でも抗菌ペプチドは主要な防御として機能していると考えられている。本年度の研究では、マダニデフェンシンを用いた野生動物モニタリングシステムによるマダニ媒介性感染症のリスク判断を行った。 マダニ暴露状況を知るために、野生シカのマダニデフェンシンに対する抗体応答を調べた。日本は南北に長く、ブラキストンラインで生物相が大きく異なるため、北海道と東北での比較を行った。さらに、得られた結果をマダニ媒介性感染症病原体(ライム病ボレリア)に対する抗体価と比較することでマダニとの関連性を検討した。 北海道の野性エゾシカおよび東北地方の野性日本シカを対象動物とした。これらの血清サンプルは1975年から現在に至るまで集めたものである(Microbiol Immunol, 1994および1996, Isogai E et al., Appl Environment Microbiol, 1995, Kimura K et al.)。東北地方では、青森県十和田コロニー、岩手県三陸コロニー、宮城県川渡コロニーを対象とする。エゾシカの調査によって水平分布の情報を得ることができた。申請者はこれらの野生シカのライム病ボレリアに対する抗体測定を終了させており、統計学的手法によって相関があることを証明した。抗体は立体構造を認識する場合があるため、ホモロジーモデリングによってマダニデフェンシンの構造を明らかにした。この構造をもとに、作成した合成ペプチドに対する抗体の応答性から、3D構造の認識があることが分かった。
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