研究概要 |
申請者らは寄生蠕虫感染のモデル系としてブタ回虫を用いて研究を行っているが、同時に回虫とは寄生部位が異なる蠕虫のMitについても、その棲息環境の酸素分圧と呼吸様式との関係を明らかにするために組織化学的手法と生化学的手法を組み合わせて解析をすすめている。申請者らによってすでに、ほ乳動物の肺に寄生する肺吸虫には、酸素をもちいる好気的呼吸鎖と酸素を使わない嫌気的呼吸鎖を同一個体中で併せもつことが虫体体壁から分離したMitの解析から明らかにされていたが、これがそれぞれの呼吸鎖をもつ二つの異なったMitからなるのか、ひとつのMit中に好気と嫌気の呼吸鎖をもつ一種のハイブリッドタイプであるのかついては不明であった。本研究により肺吸虫の体壁には、機能的および形態的に異なった3種のMit集団がそれぞれ異なった組織に分布することが明らかになった。すなわち、虫体体壁のもっとも外側のテグメント細胞にはシトクロムcオキシダーゼ活性染色(CCO staining)で強く染まり、クリステの良く発達したサイズの小さなMit(Tc Mit)、また、体壁内側のパランキマ細胞にはCCO stainingで染まるサイズの大きなMit(Pc1 Mit)、およびまったく染まらないMit(Pc2 Mit)を、それぞれ別個に含むふたつの細胞Pc1、Pc2がモザイク状に存在することが明らかになった。蔗糖密度勾配遠心法による解析の結果、TcおよびPc2 Mitはそれぞれ好気的Mit,嫌気的Mitと定義できた。このように好気的Mitと嫌気的Mitが組織特異的に分布しているのは、本虫の棲息環境へのユニークな、すぐれた適応と考えられ、好気から嫌気呼吸の転換機構、さらにはMitの生合成機構を解明するうえで非常に重要な知見が得られた。
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