ヒト糞線虫のモデルであるStrongyloides venezuelensis(以下SVと略)は、げっ歯類の腸管に寄生する。その排虫にはTh2応答依存的に分化増殖する粘膜型肥満細胞が必須の役割を果たしていることが証明されている。また、SV感染はTh2応答依存的にB細胞に対してIgEへのクラススイッチを促し、大量のIgEを産生させるが、このIgEがSV感染制御に必要か否かについては、未だ結論が得られていない。本研究は、抗体のクラススイッチが障害されたAID欠損マウスにSVを感染させ、排虫過程を解析することにより、IgEが排虫機構に果たす役割を解明することを目的としている。 野生型マウスにSV幼虫を感染させて糞便中の虫卵数を数えると12日前後で虫卵数がゼロになるのに対し、AID欠損マウスは20日以上要した。感染後9日目の小腸内の成虫数を比較するとAID欠損マウス内の成虫数は野生型マウスの3倍以上であった。感染後10日目、14日目のAID欠損マウスにおいて粘膜型肥満細胞の分化増殖は正常に行われていた。また腸間膜リンパ節細胞によるTh2サイトカイン産生量も正常であった。すなわちIgE産生以外のTh2応答はAID欠損マウスにおいて障害されていないと考えられた。SVを感染させた野生型マウスから血清を採取し、AID欠損マウスに投与すると排虫の遅延が回復した。感染6日後のマウスに感染血清を投与し、その2日後の小腸内の成虫数を数えると非感染血清を投与したマウスに比べると成虫数の減少が見られた。以上の結果は抗体依存性の排虫機構の存在を示唆するものである。
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