研究概要 |
Trypanasoma bruceiは,アフリカ睡眠病の原因原虫である.T. bruceiは細胞表面に様々な複合糖鎖を発現しており,これらが哺乳類宿主中での免疫回避に機能すると考えられている.しかし,それら複合糖鎖の生合成に関わる遺伝子とその翻訳産物,そして個々の複合糖鎖の具体的な機能は分かっていない.そこで,本研究では複合糖鎖の合成に関わる糖転移酵素を同定し,各々の糖鎖の機能を調べることを目的とする.本研究で標的とした候補遺伝子(Tb927.8.7140~7160)は8番染色体にタンデムに並んでおり,これらの遺伝子ノックアウト株および過剰発現株の作製および解析から機能に迫る.遺伝子ノックアウト株は,Tb927.8.7140について樹立することができたが,他の遺伝子では様々なノックアウトコンストラクションを用いたにもかかわらず樹立できていない.このことは,標的遺伝子がT. bruceiの生存に重要な機能を持つことを示唆しており,引き続き解析を進める意義が大きいと考えられる.得られた遺伝子ノックアウト株は,純粋培養系での増殖速度において野生株と差が無く,この遺伝子はT. bruceiの生存に決定的な影響は与えないことが明らかになった.一方で,トマトレクチンとの反応性は,遺伝子ノックアウト株と野生株で明らかな差が認められ,さらに解析を進めた結果,遺伝子ノックアウト株では野生株よりも小さいN-結合型複合糖鎖を発現していることを明らかになった.現在,その複合糖鎖を有するタンパク質の同定を進めている.また,過剰発現株はすべての標的遺伝子で樹立できたが,T. bruceiには抗FLAGタグ抗体と強く反応する内在性タンパク質が存在することが判明したため,現在,タグを替えて標的酵素のオルガネラ分布を調べている.
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