[背景と目的]微生物の感染によって、自己免疫性疾患やアレルギー疾患が抑制されるという報告が多くなされている(衛生仮説)。本研究では寄生蠕虫の「Th17型炎症抑制作用」の機序を主に遺伝子組換えマウスを用いて解析する。[方法]実験系として主に自己免疫性関節炎(IL-1RaKOマウスの自然発症関節炎およびコラーゲン関節炎)を用いる予定であるが、未だ準備中(導入・繁殖または戻し交配中)であるので、本年度は、最近Th17の関与が示唆されている自己免疫性1型糖尿病モデルであるストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病を用いて、マンソン住血吸虫および毛様線虫の一種H.polygyrus (Hp)を感染させたマウスで抗糖尿病効果を検討した。[結果]マンソン住血吸虫・Hpとも、感染により多回低用量STZ投与マウス(免疫機序の関与するモデル)の血糖値上昇が有意に抑制されたので、Hpを用いてさらに詳細な検討を行った。Hpは単回高用量STZ投与マウス(免疫機序の関与しないモデル)の血糖値上昇は抑制せず、また経口グルコース負荷後の血糖値の動態に影響を与えなかった。感染マウスの脾細胞ではTh2応答の増強とTh1応答の低下が観察されたが、Th2応答の生じないSTAT6KOマウスにおいてもHpの血糖値上昇抑制作用は観察された。 [考察]寄生蠕虫の抗1型糖尿病効果が確認された。本効果は寄生虫による糖消費や糖吸収阻害にではなく免疫修飾作用に基づいていると考えられたが、寄生虫によるTh2偏位は本効果に関与していないことが示唆された。また、本糖尿病モデルはIFNγKOマウスにおいても野生型と同様に発症したことから、Th1依存性ではないことが確認された。
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