研究概要 |
本研究の目的はボルデテラ属細菌が産生するアデニル酸シクラーゼ毒素(Adenylate cyclase toxin, ACT)の性状を分子レベルで解析し、ボルデテラ属細菌間で異なる、宿主特異性を含めた感染病態の違いとの関連を解析することにある。本年度は気管支敗血症菌(B.bronchiseptica)と百日咳菌(B.pertussis)の産生するACTの毒素活性を比較するためにACTをコードするcyaA遺伝子をそれぞれクローニングし、大腸菌発現系を用いて大量発現させ、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを用いて精製し、各菌株由来の組換えACTを得た。それぞれの組換えACTについってアデニル酸サイクラーゼ活性を測定したところ、in vitro条件下では両毒素とも同等の酵素活性を示した。一方、ラット肺胞上皮由来L2細胞に各ACTを作用させて細胞内での活性を測定した場合には、百日咳菌由来組換えACTは酵素活性を示したものの気管支敗血症菌由来組換えACTは酵素活性を示さなかった。ACTはN末端側からにACT活性ドメイン、疎水性ドメイン、RTXドメインの3つのドメインからなるが、各ドメインについて両毒素間にいくつかのアミノ酸残基の違いが存在する。この違いによりL2細胞に対するACT活性の違いが生じるかどうかを明らかにするために、百日咳菌由来ACTと気管支敗血症菌由来ACTとのキメラ毒素を作製してL2細胞への作用を調べたところ、百日咳菌由来ACTのN末端領域(1-1, 007aa)を持つキメラ毒素はL2細胞に作用を及ぼすのに対し、気管支敗血症菌由来ACTの同領域を持つキメラ毒素は作用しないことがわかった。以上の結果より、百日咳菌由来のACTのN末側領域がL2細胞に対して活性を示すのに必要であることがわかった。
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