研究課題
本研究の目的はボルデテラ属細菌が産生するアデニル酸シクラーゼ毒素(Adenylate cyclasetoxin,ACT)の性状を分子レベルで解析し、ボルデテラ属細菌間で異なる、宿主特異性を含めた感染病態の違いとの関連を解析することにある。昨年度までの研究結果から気管支敗血症菌(B.bronchiseptica)と百日咳菌(B.pertussis)の産生するACTの毒素活性を比較したところ、両菌株由来の毒素はin vitro条件下では同等の酵素活性を示すが、ラット肺胞上皮由来L2細胞に対する毒素活性の発揮には百日咳菌由来のACTのN末側領域が必須であることがわかった。このN末端側領域には両毒素間で6アミノ酸残基の違いが存在する。そこで本年度はこのうちのどのアミノ酸がL2細胞への活性に必須であるかを同定し、さらにそのアミノ酸置換がACTの細胞への作用機序のどの段階に重要であるかをそれぞれのアミノ酸を置換してL2細胞に対する活性を調べた。その結果、ACTの375番目のアミノ酸が百日咳型のPheでは作用がみられ、気管支敗血症菌型のSerでは作用がみられないことが明らかとなった。またこの375番目のアミノ酸はボルデテラ族細菌の1つであるパラ百日咳菌(B.parapertussis)ではSerであり、実際にパラ百日咳のACTはL2細胞に対する活性を示さないことを確認した。またこの375番目のアミノ酸の違いはACTの細胞への結合、アデニル酸シクラーゼ活性、細胞溶解活性のいずれにも影響を及ぼさなかったことから、標的細胞への侵入過程に重要なアミノ酸である可能性が考えられた。今後、375番目のアミノ酸に起因する毒素作用の違いが細菌感染にどのような影響を及ぼすかどうかを調べる予定である。
2: おおむね順調に進展している
ボルデテラ族細菌の遺伝子のクローニングまた変異株の作製が代表者の所属する研究室で確立され、ルーチン化できていることがあげられる。また他のin vitroの実験についても滞りなく進んだことがあげられる。
今後は動物を用いた感染実験で本毒素の違いがどのような影響を与えるかを調べる予定である。百日咳菌はヒトにのみ感染するという宿主特異性のため動物モデル系が存在しないと言われているため、まず多くの脊椎動物に感染する気管支敗血症菌を用いて感染実験系を確立し、その後、百日咳菌型ACTを発現産生する気管支敗血症菌を感染させて、ACTの感染に対する影響を評価する予定です。
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