本年度は最終年度に該当するため、レンサ球菌で我々が提唱した酸素を使う代謝経路と生体内の物質との関係を確立できるよう実験を遂行した。S.pyogenesでは、我々が発見した酸素を使う代謝経路はlactate oxidase(LCT)を用い酸素を使いながらH2O2を発生し乳酸からピルビン酸を産生、これを酢酸にすることでグルコース枯渇後のATP産生に関与することを見出していたが、この酵素の活性を持つ株と持たない株に分けられることは既に明らかにしていたし395アミノ酸で構成される本酵素のうち、312番目のアミノ酸がアルギニンであることが重要であることを見出していた。本年度新たな変異体作成により、96番目のアミノ酸がヒスチジンであることも本酵素の活性を維持する上で重要である知見を得た。また多くの臨床分離株を調査し、96番目のアミノ酸がチロシンに変異している株が存在することも見出しこれらはH2O2非産生株であることも明らかになった。また、本菌のうちH2O2産生株、すなわち活性型LCTを持つ株は自らが作り出した乳酸のみならず人為的に加えた乳酸も利用し、外来の乳酸を利用可能であることも明らかにした。これは生体内で発生する乳酸を本菌が利用する可能性を大きく肯定する結果である。もうひとつの対象菌種S.agalactiaeについて、グルコース枯渇後にグリセロールを利用できることを示していたが、遺伝学的に厳密なカタボライトリプレッションの制御下にあることをつきとめた。また、生体内では電子伝達系が機能していることを確認し、hemeを取り込んでいる知見を得た。またこれまでの他研究者の報告とは対照的にmenaquinone合成能が本菌に存在することを確認し、その経路を明らかにすることが今後の検討課題として残ったが、総じて生体内物質とレンサ球菌の生態との関係を大きく明らかにすることが出来たと考えている。
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