研究課題/領域番号 |
22590403
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
平松 啓一 順天堂大学, 医学部, 教授 (10173262)
|
キーワード | CA-MRSA / leukocidin / MW1941/MW1942 / PVL / 白血球溶解 |
研究概要 |
市中獲得メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(CA-MRSA)が産生する新奇leukocidin/hemolysin toxin family proteinの生物学的機能の解析を目的に研究を実施した。強力な白血球溶解活性を有する毒素であるPanton-Valentine leukocidin(PVL)蛋白質を産生するCA-MRSAの代表株の一つであるUSA400MW2株を用いて白血球溶解毒素であるpvl遺伝子及びleukocidin活性を有する既知の蛋白質であるγ-hemolysin(hlg)及び新奇毒素蛋白質をコードしていると推定されるMW1941及びMW1942遺伝子のknock-out株、並びにこれらの毒素遺伝子のdouble-及びtriple-knock-out株を作製し、作製株の培養上清を用いて白血球溶解活性を評価した。その結果、pvl遺伝子の欠失株では軽度から中等度の白血球溶解活性の低下が認められたのに対し、新奇毒素蛋白質であるMW1941及びMW1942及び既知のγ-hemolysin(hlg)をknock-outした株では親株のMW2株と有意な差がみられず、single knock-out株では白血球溶解活性の残存が認められた。一方、PVLを含めたdouble-(Δpvl-Δhlg及びΔpvl-ΔMW1941/ΔW1942)及びtriple-knock-out株(Δpvl-ΔMW1941/ΔW1942-Δhlg)では、親株に比較して白血球溶解活性の有意な減少が観察され、triple-knock-out株では、ほぼコントロールに近いレベルにまで溶解活性が低下した。これらのことから、これらの毒素蛋白質が複数共同して白血球溶解を惹起し、当該株の病原性の発揮に関与している可能性が示唆された。より詳細な検討を行うため、クローニングにより未知の新奇毒素蛋白質であるMW1941及びMW1942蛋白質を精製した。その結果、精製したrMW1941及びrMW1942蛋白質は単独ではヒト白血球溶解活性を示さず、両蛋白質の共存下でのみヒト白血球を溶解した。これらの結果から、新奇毒素蛋白質は、PVLやγ-hemolysin(hlg)同様、2成分が組み合わさって白血球溶解活性を発揮する、2成分毒素(SHT)であることが確認され、また、その活性の程度はPVLに比較してかなり弱く、近年報告されたMSSA株であるNewman株が保有するorthologs遺伝子のそれと活性に差は認められないと判断された。これら一連の実験結果から、MW2株が保有するleukocidinの中では、特にPVLがヒト白血球溶解に重要な役割を果たしていることが示唆された。なお、PVLと同様、rMW1941/rMW1942は、マウス腹腔浸出細胞(PECs)には作用せず、さらに、ヒト由来の気道及び肺胞上皮細胞にも細胞死を惹起しなかった。RT-PCRの結果から、pvlを保有しないNewman株で当該新規遺伝子のorthologの発現が高いことが見いだされ、菌株間で優位に作用しているleukocidinに相違があることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新奇毒素遺伝子の同定を行い、クローニングにより新規毒素蛋白質の精製を行った。これを用い、ヒト白血球をはじめ、ヒト由来気管支上皮細胞、II型肺胞上皮細胞等への影響を評価した。また、別のHA-MRSA株であるN315由来の蛋白質もクローニングにより精製を行い、株間由来の蛋白質レベルでの活性の差を比較した。その結果、ヒト白血球溶解活性に差は見られなかった。病原性の評価として、カイコ感染モデルを用いた実験を行ったが、いずれの毒素遺伝子欠失株でも有意な差は見いだせなかった。上記詳述した本研究の進捗は、当初計画した通りに進行しており、遅延及び実施に際しての問題点は特に認められておらず、予定通りの達成度である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、種々の動物の組織培養細胞を用いて、rMW1941/rMW1942の標的細胞の特異性を、PVLのそれとの比較を通じて検討する。そのことにより、黄色ブドウ球菌がどのような歴史的過程を経て、ヒトとの共生関係を確立したのかを探る。
|