市中獲得型MRSA(CA-MRSA)は、今世紀になり、フランス、アメリカ、オーストラリアなどで急激に蔓延して、しかも従来の病院獲得型のMRSA(HA-MRSA)より強い病原性を持つことがわかり、新たな感染症の脅威となった。CA-MRSAの強い病原性のメカニズムを探る研究が多数行われてきたが、Panton-Valentine Leukocidin(PVL)という白血球溶解毒素の産生が重要な病原因子として確認されている。しかし、この毒素のみで、CA-MRSAによる重篤な肺炎(necrotizing pneumotinis)を説明しえるかどうかは、已然明確ではない。我々は、強毒CA-MRSA株MW2が産生するMW1941/1942leukocidinに着目し、タンパクを大腸菌内で発現し、精製タンパクを用いて、ヒト白血球傷害活性を測定した。その結果、このタンパクの存在下で、PVLの白血球傷害活性が増幅することを見いだした。このことから、MW1941/1942は、PVLの活性を増強することにより、MW2の毒性を高めていることが明らかになった。また、ヒト肺由来細胞株、蚕を用いたMW1941/1942の毒性テストは、陰性を示し、現時点で、MW1941/1942の傷害活性は、ヒト白血球に限定的に観察されている。今後種々のmammalian cellに対する傷害活性を確認し、PVLとの違いを探っていく予定である。
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