本研究の目的は、ボツリヌス毒素複合体が腸管から吸収される際、小腸上皮細胞のどのような分子に結合し、吸収されるかを明らかにすることにある。平成24年度は、ボツリヌスD型毒素複合体の構成成分のひとつである非毒非血球凝集素(NTNHA)タンパク質が、ラット小腸上皮細胞(IEC-6)に結合し、その単層を透過することを見出した。本タンパク質は、毒素複合体の小腸上皮細胞層透過に関与しないと考えられていたが、今回の結果は、それを覆すものであった。このことは、ボツリヌス毒素複合体の体内侵入機構を解明する上で、重要な知見となる。そこで本年度は、IEC-6の細胞膜上から、本来の実験計画であったボツリヌスD型HA-33タンパク質の受容体を分離する実験に加え、NTNHAに結合するタンパク質の分離も試みた。IEC-6の膜タンパク質を膜タンパク質抽出キットによって、抽出した後、HA-33あるいはNTNHAタンパク質とそれぞれ混合した。HA-33あるいはNTNHAに結合したタンパク質はそれぞれの抗体によって免疫沈降し、SDS-PAGE上で分離した。その結果、それぞれのタンパク質に結合したタンパク質を検出することに成功した。さらに、本年度は、HA-33/HA-17タンパク質の溶液構造を解明することにも成功した。HA-33/HA-17タンパク質の結晶構造はすでに解明されており、結晶構造と溶液構造を比較すると、著しい形態の違いは見られなかった。しかし、糖存在化での溶液構造は非存在化でのそれに比べ、著しく異なっていた。この結果は、HA-33/HA-17タンパク質が、溶液中の糖の存在で形態変化を起こし、細胞との結合などのときに何らかの影響を与えるものと推測された。
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