ADP ribosylation factor-GTPase activating protein(ASAP1)遺伝子は多様な癌細胞に発現しており、癌細胞の運動・侵入・転移に関与している。このため、ASAP1は一種の癌遺伝子と考えられる。 このため、ASAP1癌遺伝子がこの研究の主要なテーマである癌遺伝子の炎症反応制御について、優れた実験系を提供することが推定された。そこで、ASAP1遺伝子がLPSによる炎症反応に及ぼす作用を調べた。 癌化したRAW264.7マクロファージ細胞株を用いて、LPS刺激によるASAP1遺伝子発現について調べた。ASAP1はこのマクロファージ細胞株に恒常的に発現しており、LPS刺激によってその発現が増強された。siRNAによるASAP1発現の抑制は、LPSによる腫瘍壊死因子(TNF-alpha)、インターロイキン6、インターフェロンβ、一酸化窒素など炎症性メディエーターの産生を増強した。すなわし、ASAP1はLPSによる炎症性メディエーターの産生を抑制していることが明らかになった。 このsiRNAによるASAP1発現の抑制は、RAW264.7細胞においてLPSによるNF-kappaBやmitogen activated protein kinases(MAPKs)の活性化を増強した。しかしながら、NF-kappaBの上流にあるシグナル分子、IRAK4、TRAF6、Aktなどの発現は変化しなかった。このことから、ASAP1はNF-kappaBの活性化を負の制御をしていることが示唆された。 LPS以外のtoll-like receptor(TLR)リガンドによってもASAP1の発現はLPS同様増強した。LPS以外のTLRリガンドによる炎症性反応もASAP1は負の制御をしていることが明らかになった。 ASAP1癌遺伝子が自然免疫によって誘導される炎症反応を恒常的に抑制していることが明らかになった。ASAP1遺伝子は、癌遺伝子による炎症性反応制御に新しい知見を提供する優れた実験系である。
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