ヒトを含む真核生物のホスファチジルイノシトール(PI)は、以下のような経路で合成される。 (1)イノシトール1リン酸→イノシトール+Pi(無機リン酸) (2)CDP-ジアシルグリセロール(CDP-DG)+イノシトール→ホスファチジルイノシトール(PI)+CMP 抗酸菌の場合も、これと同じ経路で合成されると報告されていた。しかし、そのAssay法が特殊だったので、抗酸菌PIの生合成経路を詳しく調べ直し、それが、ヒトとは異なる以下の新しい経路であることを明らかにした。 (1')CDP-DG+イノシトール1リン酸→ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)+CMP (2')ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)→ホスファチジルイノシトール(PI)+Pi(無機リン酸) すなわち、抗酸菌ではイノシトール1リン酸が脂質成分に取り込まれ、リン酸が1つ余分に付いた中間体ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)を生成し、その後リン酸が取れてPIを生成することを明らかにした。ヒトではイノシトールが直接脂質成分に取り込まれるのでPIPはできない。抗酸菌の中間体PIPの合成酵素を阻害する物質を見つけることができれば、ヒトには影響せず、結核菌の生育を特異的に阻害できる薬剤の開発につながると考えられる。さらに、PIは、真核生物には広く分布しているが、真正細菌の中では、放線菌など抗酸菌類縁の限られた細菌のみに分布している。従って、抗酸菌のPI生合成に関わる特有な酵素の阻害剤の探索は、ヒトやヒトに必要な常在細菌には影響の少ない、結核菌及びその類縁病原性菌を特異的に阻害できる薬剤の開発につながると考えられる。
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